艦砲射撃

それは奇妙な光景でした。空襲には慣れていて、敵機がいくら通って行っても驚かない毎日でしたが、今回だけは異常でした。敵機が一機通って行った後に、夜空の高いところに　まばゆいばかりの光の玉が一つ、輝いていたのです。「駅のあたりかな。」、と皆は騒いでいました。

と、そのうちに、頭の上を南から北へ、しゅる、しゅるっていうような音が通って行きました。そして、その後、すぐ、光の玉の下の方で、大きな音がしました。皆はそれ で爆弾が落ちたんだ、と気が付きました。それで、あわてて防空壕に飛び込みました。空襲で爆弾が上から落ちてくる時、きまって、しゅる、しゅる　っという嫌な音がして、ドカーンと破裂する音が続くのを知っていたからです。でも、今回は、それが頭の上を横切って、南から北、そして駅の近くで爆発 したのですから、驚くのも無理ありません。

翌日になって、それが艦砲射撃だったのを知らされました。南の海上に敵船が集まり、そこから、光の玉を目標に大砲を打っていたのでした。駅の防空壕に避難していた何十人もの人が死にました。

少年は、その変な光の玉と、しゅる、しゅるっていう音が、いつまでも忘れられませんでした。ただ、それで沢山の人が死んだと聞いても、実は、それほど気になりませんでした。人が死ぬことに は慣れていました。ひょとしたら、死そのものがよくわかってなかったのかもしれません。