健一君

少年の家の近くに、健一君という同級生がいました。お父さんとお兄さんと住んでいて、お父さんは身体が弱く、寝ていることが多く、お兄さんは健一君とだいぶ年が離れていて、 少年たちと一緒に遊ぶことはありませんでした。

健一君は気の優しい子で、少年とは仲良しでした。ただ困ったことは、健一君は学校へ行くのが嫌いで、めったに行きません。最初の頃は、少年と肩を並べて毎日通っていたのですが、何時の頃からか、嫌がるようになったのです。鉛筆がないからとか、ノートがないとか言っていました。でも、そんなこと はなかったと思います。もちろんあまりいいものではなく、友達に馬鹿にされることもありましたがましたが、勉強には差し支えはなかった筈です。それで、少年は学校に行くとき、いつも健一君の家に寄って誘いましたが、この頃では、 健一君は出てくることさえいないのでした。

ある日のことです。長雨が続いて、川が増水して、色々なものが流れて来ました。ボールだとか、オモチャだとか、この辺の貧しい子供たちには欲しいものがいくつも流れてきたのです。川は小さなものでしたが、上級生たちは橋の上からタモをだし、欲しいものを拾っていました。健一君のお兄さんも一緒になってタモを出し拾っていました。ひょっとして健一君のため鉛筆など拾おうとしていたかもしれません。ところが、どうしたことか、はずみで橋から落ちて、流され、死んでしまったのです。

そして、悪いことに、お父さんもそれから間もなく、死んでしまいました。おそらく健一君のおにいさんが死んだことと関係していたことでしょう。やがて、知らないうちに、健一君もいなくなりました。どこかへひきとられていった らしい、と、聞きましたが、それがどこか、少年は知りませんでした。それで、少年は、もう健一君の家へ寄ることはなくなりました。寂しくなってしまいましたが、 ちょっとホットした気持ちもありました。健一君が、別の所へ行って、学校へ行くようになったかもしれない、と、少年は思ったからです。

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