メダカ

少年の妹が、「赤いメダカがほしい」と、言いだしました。学校で、「持っている人は持って来てほしい」と、言われたのだそうです。赤いメダカは金魚屋で売っていることを少年は知っていましたが、普通の川 では、まだ、見たことはありませんでした。金魚屋で買うお金はありませんでしたから、少年はちょっと困りました。

それで、川に行けば、一匹くらいなら、赤いメダカがいるかもしれないと思い、タモとバケツを持って近くの小川に出かけて行きました。でも、黒いメダカはたくさんいましたが、赤いメダカはなかなか見つかりませんでした。 「ひょっとして黒いメダカだって明日になれば赤いメダカにかわる奴もいるかもしれない。」と、少年は勝手に思って、メダカをたくさんすくって持ち帰りました。

妹は黒いメダカばかりなのを見てがっかりしたようでした。それに気づいて、少年は妹に「金魚だって、大きくなれば黒から赤にかわる奴がいるんだ。メダカだって！」と、慰めました 。もちろん、いいかげんかな、とも思いましたが。

その晩のことです。少年は奇妙な夢を見ました。死んだ父親が出てきて「メダカを赤くしてやる。」と、言ったのです。そういえば、父親は手品が得意でしたから、その手品でメダカを赤くしてくれるんだと 、うれしくなりました。そして、本当に、夢の中では、たくさんのメダカが、皆、赤いメダカにかわったのでした。

翌朝、目が覚めると、少年は、すぐ、バケツの中のメダカを見にいきました。中にいるメダカは昨日のまま、黒いメダカのままでした。でも、少年は久しぶりに父親の夢をみて幸せな気持ちになっていました。

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